Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “京のお山に棲むものョ”
 


京の都は とにかくアツがナツい
あ、違った、夏が暑い!

 「面倒くせぇ おばちゃんだの。」
 「ここで笑わないと笑うトコないぞ…ってか?」

うっさいなぁ。
(笑)
もーりんの下手な駄洒落はともかくとして。
京都という土地は、内陸で盆地という地形上、
冬は極寒、夏は猛暑というのが定番のお日和なため、
住まわる人らはなかなかに気丈夫で、
心臓や肝っ玉が頑健上等…
じゃなくてだな。(京都にお住まいの方、すいません。)
五行や風水で断じて決めたこととはいえ、
そんなところに都を構えてしまった以上は、
多少(?)寒かろうが暑かろうが、此処に住むことこそがステータス。
大貴族や権門一族は、こぞって大きな屋敷を建てもし。
贅を尽くした邸宅には、
瑞々しい緑の木立や茂みを配し、
泉や曲水なんてものも、設けられた庭を据えていたことだろうが。





 「ふみふみ、ちょくみゆ、たあんたん♪」

随分と梢の色合いが深まった木立を抜けて、森を突っ切り、
さわさわと揺れる葉っぱの先っちょに、頬をくすぐられながら。
小さな小さな影がそりゃあお元気に駆けてゆく。
ほんの数歩分、子供でもぴょいっとひとっ飛び出来そうな、
せせらぎの初め、か細い支流を。
いちいち立ち止まっては、両足そろえて“せーの”で飛び越す拙さも、
寸の詰まったその肢体じゃあ しようがなかろ。
ちょみっとした存在につきものの、とびっきりの愛らしさ。
細い質した甘栗色の髪をきゅうと結った、真ん丸な頭や、
ぱたぱた・とたとた、
せわしなくもお元気に振り回されてるお手々にあんよ。
小鳥のさえずりよろしく、デタラメなお歌を紡ぐ小さなお口に、
潤みの強い真ん丸なお眸々は、
まるで毛並みの柔らかな小動物の仔そのまんまな愛嬌もて、
姿を見た人をたちまち きゅううんとトリコにすること間違いなくて。

  「えっとぉ。」

もうすっかりと自分のお庭扱いの裏山の、
結構深いところまでやって来て、
笹の葉がいっぱい降り落ちている空間、
竹林の入り口辺りでその足を止めると、
その小さなお鼻の先を頭上へと持ち上げる。
物慣れたとは思えぬ覚束なさで、
しきりと辺りの空気か匂いか、くんすんと嗅いで見せる小さな坊や。
一丁前にも、
ほんのり青の気配がにじむ白い小袖と、
甕のぞきという淡い水色の袴をはいているその姿は、
ちょっと見には5歳くらいの、
それなりの格の家の跡取り、御曹司級の和子のようだが。
その実体はといやあ、

 “人間ぽっちの階級じゃあおっつかねぇ、天狐の皇子と来たもんで。”

そうそう。
たかだか人間じゃあ、
寿命も咒力も神通力も、到底おっつかぬ奇跡の存在。
精霊や物怪たちの最上級に君臨し、
神様からも階級いただく存在の皇子様…なのではあるが、

 「あ〜ぎょ〜ん〜〜、あ〜しょ〜ぼ〜〜♪」

小さなお手々を口許にあてがい、
拡声器の代わりにして幼い声で呼ばわったお相手が、
すぐ近くの木立の高みで かくっとコケたのも、もはやお約束。

 「あのなぁ……。」

あんな小さい子に好き勝手に呼ばれていること、
恐れもなく懐かれていること、などなどへ、
一応は脱力してみたものの。
それこそ今更な話だなとの納得もまた、素早く訪れる切り替えのよさよ。
筋骨屈強、それは精悍な肢体に作務衣をまとい、
黒い髪を小分けにし、縄のように綯っている、
どこか変わった風体の青年が、
そりゃあ高いところから ひらりと音もなく飛び降りて来たのへと。

 「あぎょんっ!」

わあと無邪気に全開で笑って見せた幼子が、
たかたかと、それで精一杯の小さな歩幅で駆け寄って来るのがまた、

 「…………………。///////」(←あ)

いかんな、どうも。
この頃では隠す気がしなくなるほど直截に、
顔が緩むのが困ったもんだと。
愛らしい信奉者が一直線に駆け寄って来るの、
内心では十分によによしながら待ち受けて。

 「元気だの、坊主。」
 「うっ。くう、元気っ!」

あまりの身長差のせいで、
相手のお顔を見上げた途端、
背後へ“おとと”と よろけそうになったおちびさんを。
それはなめらかな素早さでかがむと、
その頼もしい腕の中、ひょいと抱えた蛇神様。

 「夏毛に替わっておるとはいえ、
  もふもふの ふわふかな毛並みは そのまままとっておろうに。」

暑うはないかと訊いたなら、
小さな顎を引いての“うっ”というお元気な返事が返る。

 「あんね? たぁも様に、なむなむってして もやったの。」
 「たぁも様? なむなむ?」

相変わらず、自分の実の父を掴まえて、父上と呼ばずにいる和子様で。
今世の天狐の総帥、玉藻様から何かしてもらったらしいと理解が及び、

 「……ああ、何か咒を掛けてもらったのだな。」
 「うっ。」

去年はね、あちあちで ふにゅふにゅだったのって ゆったらね、
そのよな下界へわざわざ降りゅずとも、此処で夏を越せばってゆわれたの。

 「でもでも、そりは“やーの”ってゆったらね。
  しょがないなあ、くじゅのはわって、笑ってね。」

それから、何か特別な咒をほどこしていただいたらしく。
ふわふかな頬を小さなお手々で両側から押さえ、
やーねーと笑う仔狐さんの素振りが、
何とも愛らしく思えてしょうがないらしい蛇様の総帥様。


  こちら様も暑いのには強いはずなんですけどもねぇ
  それでもおかしくなるほどに、
  京の都の夏も凄まじく暑いのかしらねぇ。


  「殺すよ? おばさん。」


  ひゃああ、涼しくなったよ、今。




  〜なしくずしに Fine〜  10.07.28.


  *相変わらず、な〜んやこれなお話ですいません。
   いやホンマに毎日暑いので、
   真っ当なお話さえ浮かばずで…あ・それはいつもか。
(笑)
   久方ぶりのこちらの二人を書かせていただきました、はいvv
   阿含さんも、もうすっかりと
   くうちゃんのお父さん・その3づいとりまして。
   あ、いやいや。そろそろ“その2”へランクアップしてるかな?
(こら)

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